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函館家庭裁判所 昭和59年(少)1104号 決定 1984年11月01日

少年 T・Y子(昭四四・一〇・九生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、中学二年生当時の昭和五八年八月ころから、無断外泊や家出を繰り返しては不良仲間と深夜まで盛り場を徘徊したり、不純異性交遊などを重ねるようになり、深夜徘徊、シンナー吸入、恐喝などによりたびたび警察に補導されたが、その行状は一向に改まらず、昭和五九年三月ころからは暴力団員とも交際するようになり、家出して暴力団員方などに寝泊りしたり、これらの者と肉体関係をもつて小遣いをもらつたりしたほか、同年九月ころからは覚せい剤を数回注射してもらうなど、保護者の正当な監督に服しないばかりか、正当な理由がなく家庭に寄りつかず、かつ、暴力団員等犯罪性のある者若しくは不道徳な者との交際を続け、自己の徳性を害する行為をする性癖を有するもので、その性格、環境に照らし、将来、売春、覚せい剤使用等の罪を犯す虞れがあるものである。

(法令の適用)

少年法三条一項三号イ、ロ、ハ、ニ

(処遇の理由)

1  少年の父母は、父の飲酒、暴力などが原因で少年が三歳のときに別居(その後協議離婚)し、少年は、一時期母方の祖母に預けられたり、六歳のころからは母の内縁の夫のAやその子らと同居するなど恵まれない家庭環境にあつて情緒的な安定が得られないまま生育し、また、基本的な躾もなされなかつたこともあつて中学二年生の夏ころから生活が大きく乱れ、昭和五九年二月にはAが入院して母がこれに付添い、少年は放任されたと同様の状態となつたため、以前にも増して放縦な生活を続け、暴力団員と肉体関係をもつたり、覚せい剤を使用するなどしてきたもので、少年は、健全な道徳観や罪障感に乏しく、不良集団や薬物に対する親和性は相当高い状態にあるものと認められる。

2  少年の母は、感情的起伏が激しく、また、被害意識も強く、ヒステリー傾向を多分に有しているところ、昭和五九年一〇月一日、Aの看病疲れや同人が同年八月二二日に死亡したことによる精神的打撃に加えて、少の非行に対する心労も重なり、神経衰弱(不眼、妄想、拒食等)で入院するに至り、現時点においても退院の目途がたつていないうえ、少年に対する監護の意欲をなくし、自分の手には負えないとして施設入所を希望している。また、少年には現在一九歳になる兄がいるが、同人は、非行歴、教護院入所歴を有するうえ、ここ数年間は家に寄りつかず、少年や母との交渉は途絶えており、兄からの援助を期待することはできない。このように、現在の少年の保護環境は劣悪であるが、今後、母の病気が軽快したとしても、その監護能力は低いので母による適切な監護は期待しえず、また、有効な社会資源は見出しえない状況にある。

3  以上の諸事情に鑑みると、現段階においては、在宅の処遇によつて少年の矯正を図ることは著しく困難であるというべく、この際少年を施設に収容して従前の生活環境から切り離し、規律ある集団生活を通じて基本的な生活習慣を身につけさせ、あわせて薬物の弊害についての認識を深めさせるとともに健全な道徳観や規範意識の涵養を図る必要がある。

なお、少年は現在中学三年生であること、これまで保護処分歴はなく、今回観護措置をとられたことを契機として徐々に内省を深めつつあることなどを考慮すると、少年に対しては一般短期処遇課程において集中的な教育、訓練を施すのが相当であるが、その際、在籍中学校との連携を密にし、早期に円滑に学業に復帰できるよう配慮する必要があると思料し、別途その旨の処遇勧告をすることにしたが、あわせて、少年の家庭復帰に備え、母に対する援助、指導、適切な社会資源の開拓等の保護環境の調整についても十分配慮することを望むものである。

4  よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 二本松利忠)

処遇勧告書<省略>

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